番外通信 『DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン』『八岐之大蛇の逆襲』編

前回に引き続き、DAICON FILM作品の紹介をいたします。
今回は『DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン』と『八岐之大蛇の逆襲』です。

『DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン』

1983年3月完成/8ミリフィルム作品/上映時間約26分

DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン
「大日本」と同じく、1983年開催のSF大会「DAICON4」のプロモーション活動の一環として制作された作品です。円谷プロの本家ウルトラマンに愛着が深かった庵野秀明を中心に、アマチュアの域を越えた完成度の高い作品となりました。
ハードなストーリーと精緻なミニチュアワークによる特撮で構築された世界観、そこに人間の素顔のまま登場するウルトラマンというギャップがこの作品の妙味です。

発進せよ! 地球が危ない 退避する隊員たち

「MATアロー1号発進命令(増殖怪獣バグジュエル登場)」

 外宇宙からの隕石「ラムダ1」の落下により、平和だった地方都市・ヒラツネ市が一瞬にして消滅した。
 調査に向かったMATは、ラムダ1とともに飛来した怪獣バグジュエルと遭遇する。その戦闘の中、バグジュエルの攻撃を受けたイブキ隊員のMATアローが墜落炎上する。
 通常兵器をものともしないバグジュエルに対し、地球防衛軍上層部は熱核兵器による攻撃を決定した。イブキ隊員の生存を信じるハヤカワ隊員(実はウルトラマン)は核攻撃に反対するが、謹慎を命じられてしまう。
 翌朝、イブキ隊員の実父であるイブキ隊長自らが核弾頭を装備したMATアローで発進した……。

これが皆さんお待ちかねの庵野ウルトラマンだ! カラータイマーさえあればウルトラマンなのです 頑張れ、ウルトラマン!
「DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン」~よもやま話~
隊員集合 「DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン」のMATの制服は、庵野総監督のデザイン。ウルトラ警備隊と機動戦士ガンダムの地球連邦軍の制服を足して2で割ったようなデザインです。監督を始めとした当時のスタッフが何を愛していたかがよくわかるデザインですね。
今と違いコスプレ衣装専門店や自作用のアイテムが揃ったお店などはなかった時代です。これらの衣装は庵野監督がヘロヘロっと描いたデザイン画を元に、普通の服屋さんにオーダーしました。隊員の一人を演じているスタッフの家業が服飾関係で、彼の知っていた服屋さんでした。
二週間ほどで無事衣装があがってきて、受け取ったスタッフたちは大興奮! 喜び勇んで着てみると……なんだか、体に合わない!
その瞬間、みんなハッと気が付きました。
仮縫いのために代表で服屋さんへ赴いた人(服屋さんを知っていたスタッフ)の体型が、ちょっと不自由なバランスだったのです(分かりやすく言うと短足胴長)。主人公のハヤカワ隊員は、上着はあまるはスボンはつんつるてんになってしまうはで、悲惨な状態に。やむなくブーツ、ベルトや小物類でバランスを取ることになりました。
それでも本格的に作られた衣装を着るのは、スタッフ全員生まれて初めてのこと。みんなおおはしゃぎでした。
庵野監督は隊員役でもないのに、わざわざ自分用のものを作ってもらい、嬉しそうにいつまでも普段着にしていたとか。

「DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン」メインスタッフ
総監督 庵野秀明
「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」監督等
特技監督 赤井孝美
ゲーム「プリンセスメーカーシリーズ」、実写作品「大特撮巨編『ネギマン』」監督/小説「『星界』シリーズ」挿画等

詳しいキャスト・スタッフなどの情報はこちらもご参照ください。


『八岐之大蛇の逆襲』

1985年12月完成/16ミリフィルム作品/上映時間72分

八岐之大蛇の逆襲

DVDパッケージ描き下し画像 作画:開田裕治 DVDのお求めはこちらから!

DAICON FILMの総力を結集して作られた、本格特撮怪獣映画。
山陰の地方都市に甦った八本首の大怪獣「ヤマタノオロチ」と防衛隊との攻防を中心に、それを取り巻く人々の人間模様をコミカルなタッチで描きます。

監督の赤井孝美は自らの生まれ故郷・米子市の市街地を大量のミニチュアで完全再現。後に平成ガメラの特技監督となる樋口真嗣とともに破天荒な特撮大活劇を作りあげました。
オロチと防衛隊に蹂躙され爆発炎上する米子市街が主役とも言える、正統派特撮映画です。

桐原、田子、米子駅での邂逅 走り回るTVスタッフたち オロチの操縦を依頼する宇宙人たち

あらすじ

 日本の古代神話に描かれた「ヤマタノオロチ」は、実は2000年前に宇宙人が地球へ送りこんだ侵略兵器だったのだ!
 ひょんな事からオロチの体内に取り込まれてしまった若き古生物学者・桐原祥子は、ピントのボケた宇宙人たちにオロチの操縦者として任命されてしまう。操縦者を得た宇宙人たちは2000年ぶりに活動を再開。以前は失敗した地球侵略を、再び試み始める。
 古代怪獣の発見に狂喜する考古学者の田子教授、スクープをものにしようと走り回るTVディレクター達、そして初の実戦に大はりきりの毛利大佐率いる防衛隊。人々の奇妙なバイタリティーにあふれる真夏の米子市街で、祥子の操る100m超の大怪獣「ヤマタノオロチ」と、総力体制の防衛隊がぶつかり合う。大破壊の幕が切って落とされた!

桐原、オロチの操縦席にて 侵略兵器、始動! 米子は大混乱
「八岐之大蛇の逆襲」~よもやま話~
撮影メイキングオロチの撮影といえば、「やけど」。この作品を制作する頃にはDAICON FILMスタッフの火を扱う技術がかなり向上しており、防衛隊を襲う大火球爆発から電線がショートする小さい火花まで、使用する火薬量の加減や上手く爆発させるコツなどしっかり掴んでいました。
そうなると、撮影はどんどん大胆になっていくもの。目前の爆発で役者はおでこにやけどし、裏方スタッフの前髪は縮れ毛に。ビル爆発シーンの撮影では、がれきから上がった火が特殊効果スタッフの袖を燃やしてしまいました。夏の夜の撮影中、あまりの蚊の多さに虫に灯油をかけて燃やそうとした赤井監督は、手の平を燃やしてました(これは直接手で灯油を扱うのが悪いですね……)。
特撮とは、火と友達になることと見つけたり(良い子は真似しちゃいけないよ!)。

八岐之大蛇の逆襲

VHSビデオ発売時宣伝ポスター画像 作画:開田裕治

「八岐之大蛇の逆襲」メインスタッフ
監督 赤井孝美
ゲーム「プリンセスメーカーシリーズ」、実写作品「大特撮巨編『ネギマン』」監督/小説「『星界』シリーズ」挿画等
特技監督 樋口真嗣
特技監督、ビジュアルクリエイター。平成ガメラシリーズ、新世紀エヴァンゲリオン等。次に控えている作品は2015年公開予定「進撃の巨人」実写版

詳しいキャスト・スタッフなどの情報はこちらもご参照ください。


続くよ!!番外編はこれにて終了です。次回は引き続きのーてんき通信 DAICON3の思ひ出をお送りします。第7回「オープニングアニメ」に続きます。
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番外通信 『快傑のーてんき』『愛國戦隊大日本』編

いつもGAINAX NETおよび「のーてんき通信 DAICON3の思ひ出」をご愛読いただき、ありがとうございます。
武田の思い出話を楽しみにしてる皆さまには申し訳ないのですが、今回と次回はDAICON3の後に作られた『DAICON FILM』の4つの作品をご紹介します。当時のスタッフたちの雰囲気が少しでも伝われば幸いです。
今回は『快傑のーてんき』『愛國戦隊大日本』の2本をお送りします。

※DAICON FILMとは
DAICON FILMとは
1981年に大阪で開催された日本SF大会DAICON3と、1983年に開催された同大会DAICON4の間に作られた自主制作映画のグループです。同じ頃に作られたSF専門ショップ「ゼネラルプロダクツ」や、のちに立ち上げられた弊社ガイナックスのスタッフが多数参加していました。

『快傑のーてんき』

「快傑のうてんき」 ―危うし少女、メカケの恐怖―
1982年8月完成/ビデオ作品/上映時間約15分
「快傑のーてんき2 純愛港町篇」
1984年3月完成/8ミリフィルム作品/上映時間約22分
「快傑のーてんき in USA」
1984年6月完成/ビデオ作品/上映時間約4分
「ロールプレイングのーてんき in ソウル」
1988年8月日本SF大会MIGCONにて上映/ビデオ作品

彼の名は快傑のーてんき
東映のヒーロー物「快傑ズバット」をモチーフとしたビデオ作品。
当時グループのリーダーだった武田康廣のキャラクターを全面に押し出した、短いながらもインパクトのある怪作です。当初主演を嫌がっていた武田をよそに、同タイトルで4本のエピソードが作られました。『映像作品を2本同時制作する合間を縫って「息抜きに」もう一本作ってしまった』という1作目の制作裏話に、当時のスタッフたちのバイタリティが感じられます。

さすらいの私立探偵早川健。その正体は…… 助けを求められる早川 バッカーの手が迫る

「危うし少女、メカケの恐怖」

 さすらいの私立探偵、早川健は、親友の飛鳥五郎を悪の組織バッカーに殺害された過去を持つ。飛鳥を殺した犯人を探し、彼は今日もさすらい続けるのだ。
 さすらいのさなかに立ち寄ったとある町で、早川はヤクザにからまれていた姉弟を助ける。姉の名前はユリ、弟の名前は太郎。ユリをメカケにしようとする市会議員・黒川(実はバッカーの幹部M)の嫌がらせだった。ユリを手に入れるため、新たにヤクザの沢村と刃物使いの用心棒”ヤッパのジョー”を差し向ける黒川。早川は彼女を守るためにジョーと対決し、「ナイフ投げ勝負」で見事に勝利する。しかしその直後、早川は沢村とその手下たちの銃弾に倒れ、ユリは男たちに連れ去られてしまう。彼女はこのまま黒川のメカケにされてしまうのか? 危うし、ユリ!
 その時、バイクの爆音とともに桃色のスーツに身を包んだヒーローが姿をあらわした!!

「純愛港町編」

 早川は可憐な花売り・ゆかりに出会う。ゆかりの美しさに目をつけたバッカーの死神伯爵が手下を使い彼女をさらおうとするが、早川に助けられことなきを得る。自分を助けてくれた早川に感謝するゆかりとの交流は、さすらいの旅を続ける早川にひとときの安らぎをもたらすのだった。
 しかしなんという運命のいたずらか、ゆかりのかつての恋人は、バッカーとのーてんきの熾烈な戦いに巻き込まれ命を落とした男だったのである!
 新たに現れた死神伯爵の手下に捕らわれるゆかり。死神伯爵に呼び出された早川に、悪の科学者ドクトルマッドが作ったメカのーてんきが戦いを挑む! 強敵・メカのーてんきに、のーてんきは勝てるのか? 捕らわれたゆかりの運命は……?

「のーてんき in U.S.A」

 さすらい続ける早川健の旅路は、はるか海を越えアメリカはロサンゼルスまで伸びていた。チャイニーズシアターの前でものーてんきの勇姿はひときわ映える。そんな異国の街角で、金髪の少女を暴漢から救う早川。感謝のキスを浴びた早川は、またはるかなさすらいの旅へと戻っていくのだった……。

「ロールプレイングのーてんき in ソウル」

 1988年に群馬県で行われた第27回日本SF大会・通称MIGCONで上映された、観客の選択でストーリーが変わる異色のインタラクティブムービー。特殊な形態の上映ゆえ、その後見る機会がほとんどなくなってしまった幻の作品。

強敵現る 異国の地にて…… 今日も彼はさすらい続けるのだ
「のーてんき」 ~よもやま話~
  • 「快傑ズバット」を元にした作品を作ろうと言い出したのは、ズバットのファンだった”オタキング”こと岡田斗司夫氏。主演に武田を推したのは、赤井・澤村といったDAICON FILMの中心だった面々でした。武田の”のほほんとした顔立ち”を使わない手はないという理由だそうです。
  • 1作目の監督がやたらと多いのは、撮影現場ごとに監督が変わっていたから。撮影や制作の経験をスタッフに積ませるためという目的もあったがゆえの珍事でした。
  • 用心棒”ヤッパのジョー”を演じているのは赤井孝美。他の作品でも、DAICON関係者は悪役演技がはまる人が多いです。大阪の芸人気質ゆえでしょうか。
  • 「純愛港町篇」で写真に早川と2人で写っている飛鳥五郎は岡田斗司夫氏。DAICON時代をよく知る人には「武田&岡田のツーショット写真というだけでかなり面白い」とか(当時のスタッフ談)。
  • 「のーてんき in U.S.A」はワールドコンLA大会参加のため渡米した際に、ついでに撮影された作品。早川が助ける金髪少女を演じていたのは、武田夫人でSF作家の菅浩江さんです。つまり大がかりなのろけですね。
  • 2001年に幕張メッセで行われた第40回日本SF大会では、武田本人によるのーてんきがコスチュームショウに登場! 当時3歳だった娘さんと親子共演のダブルのーてんきでした。

詳しいキャスト・スタッフなどの情報はこちらもご参照ください。


『愛國戦隊大日本』

1982年8月完成/8ミリフィルム作品/上映時間約19分

1983年のSF大会「DAICON4」への立候補にあたって、プロモーションの一環でその前年に発表された作品です。

「スーパー戦隊シリーズ」をモチーフに制作された、オリジナル「戦隊ヒーロー物」アクション映画。悪の組織「レッドベアー」が送りこんだ怪人「ミンスク仮面」に対し、アイカミカゼ・アイハラキリ・アイスキヤキ・アイテンプラ・アイゲイシャ、五人の愛國戦隊が大日本ロボを駆って立ち向かいます。

タイトルやキャラクター名が表すとおり、右も左も等しく笑い飛ばすパロディ色の強い作品。爆発シーンや大日本ロボと巨大化怪人の戦いなど、素人ばなれした特撮も見所です。

愛國戦隊参上 戦闘!! アイゲイシャ♡

「びっくり!君の教科書もまっ赤っか」

 愛國戦隊大日本のリーダー神風猛は、常日ごろから肉体や精神の鍛錬を怠らない。
 トレーニングの合間に書店に立ち寄った猛は、店頭の書籍が全て「赤い」本にすり替えられていることに気付く。
 デスマルクス総統率いる悪の組織「レッドベア-」の洗脳五ヵ年計画・教科書赤化作戦が開始されたのだ。
 おりしも郊外の造成地では、行動隊長ツングースクキラーと怪人ミンスク仮面が戦闘員ハラショマンたちに教科書の運搬を指示していた。急行する愛國戦隊!! 変身した大日本とレッドベア-との壮絶な戦いの幕が切って落とされた!!

レッドベアー一行 特撮は爆発だ 大日本ロボ出動!!
「大日本」 ~よもやま話~
  • 大日本はスタッフ育成の目的もあり撮影された「のーてんき」とは違い、小道具・衣装・キャスティングなど細部までこだわって制作された作品です。アマチュアとは思えない爆発シーンにもスタッフのこだわりが見てとれます。
  • 撮影されたのは、当時は空き地だった大阪大学医学部病院建設予定地や、大阪城公園・万博公園など。撮影中に見学していた人も多く、「放送はいつからやの?」などと聞かれることも。それに対し「来年4月からです」と適当なことを答えたDAICONFILMスタッフは、罪深いことをしたものです。
  • 戦闘員ハラショマンの衣装は、一見大阪芸大のジャージに見えます。しかしよく見ると胸の表記が“大阪芸大”ではなく“大阪芸人”になってます。
  • ナレーションは特撮スタッフでもある庵野秀明。某ジブリ作品に先んじること30年前、既にナレーションで声の出演を経験していたのでした。大日本ロボの中の人もしています。
  • 大日本の主題歌は、某スーパー戦隊の主題歌のメロディにオリジナルの歌詞をのせた、いわゆる替え歌。この作品を見て以来替え歌の方が刷り込まれ、元の歌を歌えなくなる人が続出したとか。今でもカラオケで大日本バージョンを歌う人がたまにいます。やはり罪深い作品です、大日本。
  • そのモチーフゆえ、本作品は「反社会主義」「右翼的」などと評されることもありました。作品をちゃんと鑑賞すれば、この作品はSFファンが好む「ナンセンス」な「バカ話」であることが分かるのですが、タイトルや概要だけ見た人には誤解されやすいかもしれません。制作されたのは東西冷戦の真っただ中、ロシアがソ連だった頃でありました。

「愛國戦隊大日本」メインスタッフ
監督 赤井孝美
ゲーム「プリンセスメーカーシリーズ」、実写作品「大特撮巨編『ネギマン』」監督/小説「『星界』シリーズ」挿画等
特撮 庵野秀明
「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」監督等

詳しいキャスト・スタッフなどの情報はこちらもご参照ください。