それは、溝の口駅の長い階段から始まった。
「ぐおおおっ!!」
そう、アメリカに旅立つ金髪・・・もとい、半黒半金髪と緑髪夫婦の今回の荷物は、冒険新婚旅行の時よりも重さを増していた。
 アメリカのメリーランド州ボルティモアで開催される、アメリカ人の日本のアニメや漫画ファンによるコンベンション、通称「OTA-KON」(オタク・コンベンション)に妻がゲスト作家として招かれている。しかも、ライブステージの予定まであるという。
夫はライブ使用曲をリアレンジして録音し直し、さらにステージでキーボードを弾く。それに加え、及ばずながら妻のボディーガードとして同行するのだ。

 今回のメンバーは、一本木蛮、不肖あたくし、そして漫画家の加藤礼次朗、通称礼ちゃん。このヒトは現在日本の漫画家の中で、最もスパークしているバカ漫画家といえる。あたしや一本木とは、一本木も主演している「うらつき童子」等でお馴染みの国際秘宝カントク中野TKOさんを通じての知り合いであり、某有名蕎麦屋の息子でもある(笑)。
 今回我々三人は、日本から来たゲストとしてこのコンベンションに参加する。しかも、サイン会はおろか、自分たちの作品等を売れるディーラーズスペースまであるのだ。荷物が重くなるのも無理はなかろう。一見コンパクトなダンボール箱には、一本木の同人誌はおろか、アメリカで出版されて送られてきた漫画もあった。いわば、逆輸入である。しかも夫も、某有名ロボットアニメの某有名キャラのフィギュアをUFOキャッチャーでゲットしていた。無論、売るためだ。計二十個のフィギュアは、ほんの三千円程度でゲットした。ふっ、天才(^^;

 数十キロの箱をホームに上げ、礼ちゃんと待ち合わせをしている箱崎エアターミナルに向かう。しかし、この時点で出発予定時刻は30分以上オーバーしていた。ううう、これでは新婚旅行の時より酷いではないか。夫の心労はつのる。
 水天宮駅に到着。すでに昼の12時。出発は13時50分。
「探したよぉ、どーしたかと思った」と言う礼ちゃんを連れ、チェックイン。
しかし・・・時すでに遅し。今回、一本木と我々は乗る飛行機が違っていた。一本木はデトロイト経由、我々はミネアポリス経由でボルティモア着。しかし、ノースウエスト航空のお姉さんは冷たく言った。
「お二人の乗る機は、今すぐ成田に向かってもギリギリです。向こうのカウンターはクローズしてますから・・・間に合いませんね
うひぃぃぃぃ。なんとかなりませんかぁ(泣)。
「今、ハイシーズンですからどの便も満席に近くて・・・あ、でも何とかなりそうです。その代わり・・・」
 何とかなった。コースも同じくミネアポリス経由。しかし、乗り継ぎの関係で、ミネアポリスでの待ち時間が五時間ある。その結果、一本木より40分早く発って、三時間遅く到着する、ということになってしまった。
 やれやれ、一件落着。改めて荷物を預け、そのまま出国手続きをし、バスに乗り込む。中では、礼ちゃんと妻はアニメ関係の話題で盛り上がり、あたしはいつしか寝てしまう。気がつくと成田だった。
「とりあえず、食うモノ食わんと」
 日本食とのお別れである。手近のレストランに入り、まずはビール。そしておのおのの胃が欲求するモノをオーダー。ああ、モロキュウが美味。それからちらっと買い物をして、出国。おっと、もう搭乗時間ではないか。それでは妻よ、ボルティモアで会おうぞ。
「NW●●便にお乗りの・・・」
 だーっ、呼び出されちったい。駆け足で乗ると、見事に超満員。しかも我々の席は隣同士ではなく、タテ続き。しかも、三人掛けの真ん中。あたしの両脇は、XXLサイズのアメリカ男性。このまま11時間も乗ってなきゃいけない。これは立派に拷問である。礼ちゃんと喋るのもままならないため、映画を観るか寝るしかない。だが、外は暗くなっていても日本時間では宵の口。結局映画を三本続けて観てしまった。「フェノミナン」「スペシャリスト」「ジャッジドレッド」。
いつの間にか、両側の膝掛けも占拠された。さらにあろうことか、通路側のおやじがあたしのスペースに足を潜入させつつある。 そうはいくかい、と、がばっと開脚。おやじはにらんできたが、相当ストレスが溜まってご機嫌ナナメのあたしはにらみ返す。ふふん、勝ちぃ。

 日本時間では午前二時。ようやくミネアポリスに到着。昼の12時である。機を降り、入国審査。そのまま荷物をピックアップし、税関を過ぎて国内便にチェック・イン。さあ、空港内を探検でしょ。と、プーンと匂ってくるシナモンの匂い。うーむ、アメリカの匂いだ。早速二人はあたしのお気に入りのSTARBUCKSにてコーヒー・タイム。それからモールをあちこち観てまわる。ここミネアポリスはネイティヴ・アメリカンであるインディアン、ナバホ族とかがいた地域らしく、専門のショップがあったりする。礼ちゃんはそこで、資料になるからと早くもいろんなモノを買っていた。礼ちゃん、いくらぐらい使ったの?
「うーん、200ドルくらい」・・・まだ経由地なのに(笑)。
 今度はバーへ。まだ時間はあるからね。そこでビールを飲みつつ、軽く食事をしておくことに。
「やっぱりアメリカに来たらハンバーガーを食っとかんと」
礼ちゃんは7ドルくらいのハンバーガーを注文。あたしはつまみ用に2ドル50セントのオニオンフライ。ふふふ、礼ちゃん。キミはまだこの国の基準値を知らないのだ。
 オニオンフライが運ばれてくる。礼ちゃんの顔が「へ」の字になる。なんせ、揚げたてのタマネギリングが、ボールに山盛りなんだから。さらにハンバーガー。礼ちゃん絶句の後、
「で、でっけぇぇぇぇぇ!!」
 ホントにデカい。嫌がらせのようにデカい。でも、礼ちゃんは残さず食べましたっと。それからブラブラしつつ、国内便のコンコースへ。すると、カウンターのお姉ちゃんが声をかけてきた。
「Y0UR LAST NAME KATO?」
 いえす。するとメッセージを持ってきた。どうやら、当初予定だった便に我々が乗っていないので、向かえに来てくれる面々が心配していたらしい。知らない単語があったので、意味は何となくしかわからなかったけど。
礼ちゃん「おまえらは、どこで何やっとんじゃあ!! って言ってるんじゃない?」
 やがて、ミネアポリス出発。約2時間の旅である。それにしても、周りをみて驚いたのは、ノートパソコンの普及と使用率。あちこちでカタカタと使ってる。この分野では、まだまだ日本は後進国なのだな、と納得しました。
 軽くウトウトしてると、早くもボルティモアへ到着。白色電球輝くオレンジ色の街に飛行機は降下していく。

「お疲れさまー」
 ボーディングゲートを出ると妻がいた。今回我々を招待してくれた木村邦和くん・通称クーニーもいる。彼は「IRON CAT」という出版会社を作ったばっかりの、浪速のコだす。さらに今回のコンベンションの代表であるスコットと、やはりスタッフのトッドを紹介される。ないすとぅーみーちゅー。
 さて。荷物をピックアップして、早速コンベンションの会場となるホテルへ。なんと期間中は、ホテルを借り切っているのだ。わかる人ならわかると思うが、「要するに、アメリカ版のSF大会って感じ」と妻は説明してくれた。
 途中、食事をとるために地元のドライブ・インへ。うわぁ、思いっきりアメリカだなぁ、と感心しつつ、カンパーイ。適当にオーダーして、とりあえず満腹に。それからフリーウェイでホテルへゴー。小一時間の距離である。途中で再び飲み物等の買いだしをしつつ、ようやく到着。しかしそこは、想像してたよりもずーっと高級なホテルなんだなコレが。ホテル自体のつくりも非常に面白くて、うーんと、卍型のような感じの三階建てで、室内外にプールはあるし、ヘルスクラブやサウナもあるし、地下にはでっかいバンケットホールもある。ちょっと日本では考えられない造りなのね。そして、一同は部屋に案内される。あたしと妻はアメリカンサイズのダブルベッド(妻いわく「アタシが7人は寝れるね」)の部屋、その隣のツインに礼ちゃんとクーニー。お互いの部屋はドアでつながっており、スィートみたいな感じ。ちょっとお殿様気分ですねー。
 で、本日後は休むだけ。部屋で荷物をといたり、なんとなくダベっていると、コンコンとノックの音。やって来たのは、クーニーの会社にいるスティーブ・ベネットという漫画家さん。ふふふ、あたしは以前から数回電話で話していたのだが、そのノリとクレイジーぶりがすっかり気に入っていたのだった。
あたし「ないすとぅーみーちゅー、すちーぶ!!」
スティーブ「OHHHH!!げんきですかー!?」
 そう。スティーブは日系なのだが、なんと日本で数年間アニメーターをやっていたコトがあり、多少の日本語が喋れるのだ。しかもアレだぞ。ラムちゃんを作ってたんだぞ。そのまま旧知の友のように熱い包容をする日米キ印コンビ。以降、スティーブとあたしは義兄弟となったのだ。

 翌日。ボルティモアは快晴。抜けるような青空。気温はそこそこ高いのだが、カラッと乾燥しているため、非常に過ごしやすい。ところが、妻が軽い風邪と疲れのため、ダウン。そこで夕方までは、あたし、礼ちゃん、クーニー、スティーブ、の四人組で過ごすことに。まあ、コンベンションは明日からだし、近所で買い物でもしよっか。実はコレが、今回の旅のキーになったりもしたのだ(笑)。 礼ちゃん「あのさ、おもちゃ見たいおもちゃ。あとはカードね」
 手始めに、ホテルのすぐ近所のモールに行くことにした。歩いてすぐとはいえ、アメリカでは車の移動が基本。そこでクーニーの車で移動することになったのだが、その中には「IRON CAT」の備品やスティーブのコスプレ用品で満載。まずはそれらをスティーブの部屋に移動させる。実はスティーブは物凄いミリタリーおたくで、この時も南北戦争時代に使っていた玉込めライフル(これは本物で使用可能。以前スティーブは、これで自室に入った泥棒を撃退したという。射程距離1キロという高精度)、本物の軍用サーベル、旧日本軍の制服等一式、そしてクーニーと共に習っているという理由から竹刀など。それらを運ぶ怪しい集団。
礼ちゃん「こんな朝っぱらからライフル持ってたら、誰かに撃たれるんじゃないのぉ?」
 礼ちゃんの母親は、渡米前に「銃の国に行くなんて」と散々プレッシャーを与えていたそうな(^^; 当然撃たれることもなく、一同出発。ところが両替をするのを忘れていたため、銀行へ。だが、近所の銀行では日本円のエクスチェンジが出来ないらしい。仕方なくフリーウェイをスッ飛ばし、空港へ。あたしは妻の分と合わせて5万円ほど替える。礼ちゃんはいくらぐらい替えるの?
「とりあえず、18万円」
 それは、とりあえずとは言わないーーー!!この男、マジである。それから取って返し、モールへ。まずは昼ご飯でしょ。大きなスペースにテーブルがダララッとあり、そこを囲むようにして何軒かのファーストフード系の店が並ぶ。あたしは何となく、イタリアンな店に並び、トマトソーススパとサラミピザをワンカット。しまった。とても食べられる量ではナイ。やむなくピザはお待ち帰りに。  さて、いよいよモールの散策である。まずはあたしの希望でスポーツショップへ。ナイキやリーボックのシューズを眺め、置いてあったサンドバッグを叩き、クーニーに案内されてライフルを手にとる。うーむ、とにかく広いぞこの店は。
 次に、礼ちゃんの希望でおもちゃ屋さんに。すると、そこから礼ちゃんが全開になってしまった。
礼ちゃん「こ、このバットマンのフィギュアが17ドル!!日本では五千円するのに!!こ、これは買わんと!!」「このスターウォーズのフィギュアシリーズ、まだ日本じゃ売られてないよ。こりゃあ買っとかんと!!
 以下、一時間続く(笑)。スティーブが礼ちゃんと売り場にいる間、その毒気(笑)にあてられたあたしとクーニーは小休止。しかし、それだけでは収まらなかった。その後もカードショップで「買っとかんと!!」は連発される。クーニーの車のトランクは、すでに一杯になってしまった(笑)。
 一端ホテルに荷物を置き、妻の様子を見る。大分具合はよくなってきたが、大事をとってもう少し休ませるコトに。そして一行は、再び買い物に(笑)。今度はスコットが運転する大きなバンで、トイザラスへ向かう。さらにスーパーマーケットを二軒ハシゴし「買っとかんと!!」の声は炸烈しっぱなしなのだった。あたしの買い物といえば、リカーショップで買った、マリファナより作られたビールのみ。スコットが教えてくれたのだが、そんな味もしないし、単なるビールであった。
 一度ホテルへ戻った後、妻も合流してスタッフの面々とディナーに。そこはボルティモアのダウンタウンにほど近いハーバーにあるモールで、HOOTERS(ふくろう)という店。なんでもハシャぐスティーブが言うには、ここのウェートレスは全員パツキンでグラマーなお姉ちゃん揃い、しかもピチピチのタンクトップに短パン姿らしい。果たして行ってみると、おお、ムチムチ(笑)。そこでディナーを堪能したあと、ハーバーにあるアクアリウムを眺めつつハードロック・カフェへ。一行は不思議な盛り上がりを見せたのであった。

 明けて、いよいよコンベンション開始の日。道理で朝から、それっぽいヒトが多い(笑)。聞けば、開催期間中このホテルは完全にフルハウスらしい。まずは、妻が用意をしている間に、クーニーと礼ちゃんとホテルのレストランで朝食。アメリカンブレックファーストのカリカリベーコンが美味しい。すでにロビーには、コンベンションの入場バッジを買い求める列も出来ている。
 部屋へ戻ると、妻はラムちゃんになっていた(笑)。そして礼ちゃんも着替えたのだが、何になったかというと「加藤礼次朗マン」。 これはあたしと一本木の結婚式及び一本木のMTVを観たことのあるヒトならわかるのだが、とんねるずの番組で「モジモジくん」ってあったでしょ?全身黒タイツの。あれの、唐草模様版だと思って下さい(笑)。
さらにそこに、でかい金の蝶ネクタイと金の背広を着る(笑)。これだけでもインパクトは強いのだが、礼ちゃんの独特の表情と、不思議な動き、不思議なポーズによって加藤礼次朗マンが完成する。
 さて、一同はディーラーズスペースへ向かうのだが、途中のロビーで取材に来たTVクルーに会う。それはなんとABCのプロデューサーなのだった。つまり、我々は全米ネットを占拠してしまうという、大それた事態になっていたのね(笑)。それからスペースに移動すると、スティーブと一本木、礼ちゃんはすぐにサイン会開始。あたしは品物を並べ、お手伝いをしてくれるチャイナ系のメイと共に売り子さん。一方でヘンな輩がこないかチェックする。そうこうするうちに、一本木らはパネルディスカッションに移動。あたしはメイらと共に売り場に残った。
 すると、いかにもネイビーのような、いかつくてゴツい男がウロウロしてる。怪しいな、とチェックしてると、「一本木蛮はどこにいる?」と聞いてきた。そこでパネルに行ってると言うと、どこかに去った。しかし、十数分たつと再びやってきた。「BANGは?」「まだ帰ってこん」ストーカーぽいな、危ないかもしれない。
 さらに十数分後、再びやってきた。「おまえは、BANGの夫か?」「そうだ」うーむ、一本木が結婚した時、アメリカのファンの間に衝撃がはしったとクーニーが言ってた。こりゃ危ないかな?すると男は後を向き、カバンから何かを取り出した。まずい! 身構えると男はこちらを振り向き、何かを差し出した。それは、コンベンションのプログレスレポートだった。
男「サインしてくれないか?
 やがて、みんなが戻ってくる。再びサイン、そして記念写真の雨嵐。ウェンディーズのハンバーガーをかじりつつ、この日は18時でクローズ。あとは酒のんで騒いで寝るだけっと(^^;

 二日目。今日も今日とてサインと記念写真。我が妻ながら、その人気に驚くばかり。合間にあるパネルにはあたしも引っぱり出され、質問を受けた。
「こういう奥さんを持った感想は?」
「ライオンって知ってますか? 毎日がライオンと暮らしている気分です
 アメリカンジョークで返したつもりなんですケド(笑)。
 それが終わって、スペースに戻る時に事件は起こった。クーニーらの仲間内に、チャドとブラッドという双子の兄弟がいたのだが、兄のチャドというのがガバメントの仕事をしてるというのに、スパークしまくり。しかも礼ちゃんと波長が合うらしく、すでに「チャド、アホやね」「カットーサーン」と呼び合う仲になっていた(笑)。そのチャドがまた、「カットーサーン」と笑顔でやって来たのだ。すると礼ちゃん、「チャド面白いから、このスーツをプレゼントするよ。予備を一着持ってきてるから。ちょっと待ってて」
 と言って、部屋に取りにいったのだ。それをチャドに伝えると、もの凄い大喜び(笑)。やがて戻ってきた礼ちゃんにそれを渡され、熱い日米親善をしていたのだが、チャドがいきなり「ちょっと待ってて」と言うと、スーツを持って飛び出していった。どうやら今すぐに着たいらしい(笑)。
 数分後、不思議な動きをしながら戻ってきたチャドを見て、クーニーとあたしは腰からくずれ落ちた。あ、あかん、力が入らん。しかし、すでにチャドは礼ちゃんとシンクロし、写真を撮る見物客に囲まれていた。この模様を文章にするのは、不可能である(笑)。  再びスペースへ戻った後、今日の夜はスペシャルナイトとして、コスプレコンテストと一本木のライブがあるため、早めに店じまい。
軽くディーラーズルームを覗いて備えるのだった。あ、礼ちゃんはここでも「買っとかんと!」と言ってたけど(笑)。
 コンテストとライブは、ホテルで一番大きなバンケットホールで行われる。なんと800人収容というデカさだ。うーむ、どうなることやら・・・。とにかく前にやってたイベントが終わり、ドタバタとした中で、少しでもリハをさせてもらう。今回のライブでは、あらかじめオケをDATのマスターに作っておき、そこに現地で調達してもらったキーボードをかぶせるというマイナスワン方式。ところが、キーボードを組んでもらうと、ごっつ古いやつ、しかもピアノ系の音が数種類しかでない。この時点で頭の中は不安でいっぱいだった。それでも数曲リハをこなし、客入れが始まる。最初にコンテストが行われ、あたしたちは特別審査員として参加したのだが、知らぬ間に客がドンドン増えてくる。ひぃぃ、もともとスタジオ系ミュージシャンとしては、人前は苦手ですぅ(泣)。
 さあ、コスプレコンテストの始まりだ。ところが、いやね、日本のコスプレと全然違う概念なのね。ほとんどの参加者はグループ参加で、必ず寸劇を行う。しかも笑いの取れるオリジナルストーリーを考えてる。さすがエンターティメントの国だけあってみんな芸達者だし、凄い楽しかった。日本の単にキャラの決めポーズを取るだけのコスプレより、遥かに好きですね、あたしゃ。金髪で青い目のシンジくんはいるし(実はチャド)、クリソツのルパンはいるし、ムチムチのモリガンはいるし、ちょっとおざなりな初号機はいるし(笑)。エントリーが終わったトコで審査員が各賞を決定し、ダダーッと発表。さて、いよいよライブだ。

 ステージに上がってキーボードチェック。フと客席を見ると、超満員の上に、人が入りきらないで扉開けっぱなし。早くも騒ぎ出す連中もいる。おお、アメリカならではのノリだ。一本木と礼ちゃんもスタンバイしたところで、ミキシングエンジニアにキューを出す。一曲目、「残酷な天使のテーゼ」がスタート。途端に「YEEH」「WAOOH」と物凄い歓声。曲が終わって、一本木がMC(もちろん英語だよん)すると、早くも観客のテンションはレッドゾーン。それから「鏡の中のアクトレス」「天地無用」「タフ・ボーイ(北斗の拳)」と続き、再びMCの後ショートメドレー。まずは礼ちゃんが「クレヨンしんちゃん」そしてあたしが「CHARA-HEAD CHARA」。その頃になると、スティーブやクーニー、そして彼等の仲間うちがステージに上がって一緒に歌っている。
 そして「ロ・ロ・ロ・ロシアンルーレット」ときて、ラストは一本木の魂の定版「キューティーハニー」。これは余談だが、現在放映中の「キューティーハニーF」のハウス系テーマソングはあたしも一本木も嫌い(永井豪ちゃん先生のデビュー30周年パーティーに およばれした時に、実際に歌ってるお姉ちゃんがミニライブをやってたが、とてもハニーには及ばぬプロポーションで、余計「ダメだこりゃ」と思った)なので、昔のアレンジをベースに作ったの。今回一番の自信作よん。
 歓声というより怒号の中、ステージを降りる。スタッフの拍手と握手の嵐。
もちろん観客はスタンディング・オベーションのままで、アンコールの声がホールを揺らす。適当にジラした後、アンコールナンバーのスタート。
 さあ、まずはショートメドレーなのだが、一曲目はオリジナル曲。知ってるヒトは知ってる、知らないヒトは知らないのだが(笑)、礼ちゃんの漫画に「おやじマン」というのがあり、遊びでテーマソングを作ったのね。それを急遽、「OTAKU-MAN」として歌うことにしたのだった。イントロが始まる。すると、礼ちゃんがキレた(笑)。ステージから身を乗り出し、絶叫。大喜びの観客。その姿に、あたしはキーボード弾きながら大笑い。ああおもちろかった(^^;それから「カルナバル・バベル」ときて、ラストはこれまた一本木の代名詞でアメリカでもファンの多い「ラムのラブソング」。熱狂のうちに幕を閉じたのだった。
 その夜、スティーブに誘われ、とある部屋で行われているパーティーに参加(とは言っても、いろんな部屋でグループで盛り上がっているのだが)。そこはキ印系で、飲めや歌えやの大騒ぎ。98度のスピリタスにつけ込んだチェリーを食べたりするうちに調子が出てきて、スティーブにもっとサケ! と言うと、そのまま連れられて別の部屋へ。そこではバスルームが酒部屋となっており、バスタブには水が張られ、ブッカキ氷とおびただしいビールの数々。こーいうテッテ的なおバカなノリは、大好きだねあたしゃ。そのまま適当に飲み食いし、満足して眠りにつくのだった。

 最終日は、残ったモノをドーンとダンピングしての大安売りだぜべらんめぇ。残ったものも、クーニーの知り合いのカルトおもちゃ屋さんが引き取ってくれて、めでたくソールドアウト。三日間にわたって開催された「OTA-KON」も幕を閉じ、スタッフ全員で打ち上げじゃー! 車で20分ぐらい行ったトコにあるメキシコ料理屋さんで、カンパーイ!う、うまーい!

 次の日、朝から次々にスタッフが帰途につく。握手して、また会おね、の連続。あたし達は一日ゆっくりし、翌日帰る予定。そこで、再び礼ちゃん暴走。「まだ、買わんと!」つーコトで、疲れて眠る一本木を残し、夕方近くまで再びモールめぐり。夕方、蘇生し た妻も加わって、さらにモールへ。ここでは妻はランジェリーにハマり、礼ちゃんはまだまだトレーディングカードとおもちゃ三昧。結局この旅であたしが買ったモノといえば、日本で発売されてないナイキのシューズ一足のみ。タバコ・酒・食費のぞいて使ったのは、これのみ。65ドルなり。
 夕食は、我々日本組の強い要望により、肉。フロントで一番美味しい店を聞き、でかける。うーむ、旨い!よくアメリカの食べ物はまずいという意見を聞くが、こと肉を素材として考えると、日本とは比べ物にならんほど旨い。日本の肉って、どうも不自然な味がするのね。特に霜フリなんて、狭い牧場でビール飲ませてマッサージして作ったモノだもんね。15オンスの肉をオーダーして、飲み物とデザート合わせて、5人で約一万円。ああ、幸せ。

 さて、いよいよ帰国当日。あたしと妻は手持ちの荷物以外はトランクひとつと、ボックスがひとつ。礼ちゃんは手荷物以外に現地で買った超大型のバッグを合わせ、四つ(笑)。成田からどうやって持って帰るんだろ(笑)。そして、クーニーとスティーブに送ってもらい、空港へ。チェックインし、最後のアメリカンテイスト、チリドッグを食べ、いよいよ別れの時。兄弟の杯をかわしたスティーブと熱い包容を交し、機内へ。さよならー、また来るねー!!
 帰りはデトロイト経由。だが乗り継ぎ時間が数十分しかないので、早足でビールを飲み(それでも飲む)、機内へ。この便では、妻と隣り合せで、その後に礼ちゃん。三人がけの席のあたしの隣には、オハイオ大学の助教授が乗ってました。
あたし「妻は漫画家なんです」
助教授「なんという名前ですか?」
妻「一本木蛮です」
助教授「おーまいがっ! 生徒があなたの漫画を持ってるし、私も二冊持ってますよ!
 最後の最後で、しっかりオチがついたようだ(笑)。

 現在、あたしはタイの次にアメリカが好きになってしまったようです。妻のお義父さんにも「しばらくアメリカに住んでみてはどうかね」と言われたし(笑)。

 全てのアメリカの素晴しいOTAKUの友人と、義兄弟のスティーブ&クーニーに感謝を込めて。そして、珍しいものを見せてくれた加藤礼次朗、一本木蛮と最愛の妻に、大感謝を込めて。

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